iPad Air炎上?

11月8日に報じた「iPadが炎上、豪Vodafone Storeで 負傷者なし」だが、複数の海外メディア・国内ブログメディアは「iPad Airが炎上」した事件として報じていた。 しかし、炎上したのはiPad Airではなかったようだ。米メディアMashableによると、豪Vodafoneのスポークスマンが「発火したのはiPad旧モデルで、iPad Airではない」と述べたとのこと。 具体的なモデルについては不明のままだが、現在Appleが炎上したiPadを引き取り調査中だ。 以下、このMashableの報道が正しいものとして、今回の誤報の連鎖について考えてみたい。

最初の情報はオーストラリアのメディア

筆者が調べた限りでは、最初に事件を報じたのは豪ニュースサイトnews.com.auだ。

この段階では、iPadのデモ機が充電ポートから発火したことや負傷者は出ていないことが報じられるに留まっていた。 また、同時刻に、豪デイリー・テレグラフがnews.co.auの記事提供により同内容の記事を掲載している。

英Mail Onlineが想像で補完か

その後、英Daily Mailが、豪デイリー・テレグラフのリポートとしてiPadが「発火した」ことを伝えた。 この段階で、豪メディアが報じていない内容である「iPad Air」が情報に付け加えられたようだ。

米メディアが情報源にない情報を報じる

その後、米有力メディアがこぞって「iPad Air炎上」を報じ始めた。Daily Mailソースの記事とnews.com.auソースの記事を、一部紹介する。

Daily Mailをソースにした記事

iPad Air Explodes in Australian Vodafone Store(PCMAG.com) iPad Air explodes, erupting with smoke and flames in retail shop(BGR) iPad Air Explodes in an Australian Phone Store(Mashable)

news.com.auをソースにした記事

Vodafone store evacuated as iPad Air demo model catches fire(9to5Mac)

香川真司の移籍報道

今回の誤報が発生した原因を考えると、サッカー選手の移籍報道と共通点があるように思える。ひとつ、最近話題になったプレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッド所属の香川真司の移籍報道を紹介したい。

日本人記者がコメントを英訳

事の発端は、ある日本人記者が香川真司のコメントを英訳したこと。香川の元発言は次のようなものだった。

英デイリー・テレグラフがコメントを掲載

次に、英訳コメントの提供を受けた英デイリー・テレグラフ紙が、コメントを元に記事を掲載した。 訳した記者によれば「当初懸念したモイーズへの攻撃材料という扱いではなく、前半だけで交代させられたにも関わらず、マンチェスター・Uでの必死の生き残りにかける香川の気持ちを伝えた、非常に公平な内容だった」とのこと。

タブロイド紙が煽る

BBCやスカイスポーツが、デイリー・テレグラフ紙を元に記事を掲載すると、その後、英タブロイド各紙が扇情的なタイトルで記事を掲載しはじめた。

I must shape up or ship out - 鋭さを増さねば下船(ザ・サン) Shinji Kagawa hints at Man U exit - 香川真司がマンチェスター・U退団を示唆(デイリー・スター)

サッカーメディアに詳しい読者なら、いつもの光景で特に驚くに値しないだろう。元情報から、有ること無いことを書き立てて、憶測で決めつけるタイトルで読者の関心を引く手法は、タブロイド紙の常套手段となっている。

両者の共通点

iPad Airに関する誤報と、香川真司の移籍報道の共通点。それは、確定していない情報を、想像で補完し読み換えて報じるメディアの在り方だ。 テックメディアは、「iPad」としか書いていない元記事の内容を、「iPad Air」と読み換えて煽る。 サッカーメディアは、「ただこういうチャンスはモノにしていかないと、ここでは生き残っていけないというメッセージがあると思っているから。まあポジティブに受け止めて、がんばります」を、「退団を示唆」に読み換えてて煽る。 つまり、情報源を精査せずに、書かれていない事実を想像で補完するというメディアが多数存在するということだ。 読者は海外ソース・一次ソースを調べることなく、様々なメディアから断片的にニュースを知る。そして、それが「事実」として読者の知識となる。さらに、現在はソーシャルメディアの時代。Twitterなどで記事タイトルだけを目にしたユーザは、そのタイトルに書かれた内容を「事実」として受け止めるだろう。 誤報や煽り記事を発信するメディアに一次的な責任はあるものの、読者の側でも慎重にニュースを読み取る技術を磨くことが必要だろう。 -自戒を込めて